『勇者たちの中学受験~我が子が本気になったとき、私の目が覚めたとき』【中学受験文学】

2023.02.06

中学受験特集

昨秋、こちらの本が中学受験界隈をかなり賑わせましたね。

『勇者たちの中学受験

  ~我が子が本気になったとき、私の目が覚めたとき』

おおたとしまさ・著/大和書房 (2022/11/12発売) 

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1月校入試の裏で、筆者もひそかに読み進めておりました。

2022年度中学入試に挑んだ3組の親子の物語が収録されています。

これらのおはなし、すべて実話を元にしたフィクションなんですね。

登場人物の名前や心理描写などはおおた氏による創作だけれど、

学校名や通っていた塾名、進学先もすべて実話というもの。

 

遅ればせながら読んでみましたが、やはりなかなかの衝撃作でしたね。。

各章の主人公たちの話を軽く紹介しながら、感想を書いていきます。

 

どの章も親御さん目線で話は展開していきます。

1月の前受け校受験日の朝から物語がはじまり、2月の1週目が終わる頃…

進学校決定の瞬間までを追いつつ、

それぞれの家でどのように受験勉強を進めてきたかも克明に描き出されます。

本当に、あまりにハードでヘビーな3週間ですね。

中学受験を経験したすべての親子に心からの拍手を送りたくなります。

 

1章 アユタ

アユタの父親目線でおはなしは進みます。

新小4から通塾をはじめ、目標校は神奈川御三家。

両親とも中学受験未経験ではあるものの、

事前に様々な情報を集めて受験家族としての心構えをしてきたつもり。

…が、必ずしも親の思惑通りには伸びないのが成績というもの。

このじわじわと焦りに飲み込まれていく様子にぞくぞくしました。

息子の伸び悩みに頭を悩ませながらも迎えた2月の神奈川受験、

はたして彼の受験の顛末は・・・?

ぜひ、実際に読んで確かめてみてください。

 

2章 ハヤト

大手受験指導塾に通塾しているハヤト。

入学時から常にトップで、「中学受験三冠」も夢じゃないと期待をされていた。

開成・灘・筑波大附属駒場、この3校合格することを三冠と呼ぶのだそうです。

そんな超優秀な男の子の、母親の目線でのエピソードです。

塾からの期待や、大手ならではのトップ層が受けられる恩恵。

大人の関係のなかにあるしがらみや見栄、トロフィー願望…。

子ども自信が感じているプレッシャーを、

わかっていながらつい見て見ぬふりをしてしまう。

その時、ほんの12歳の子どもはどうなってしまうのか。

 

そしてこの本のサブタイトルにあるとおり「目が覚めた」瞬間。

家庭の中に何が起こるのか。必見です。

 

3章 コズエ

大人しく、引っ込み思案で自分のことを話すのがあまり得意ではないコズエの母親が語る、

中小規模塾に通う、いわゆるボリュームゾーンにあたる家族のエピソードです。

コズエには姉がいて、彼女もまた私立の女子校に通っている。

そのときの反省点を生かして、コズエ本人の希望もあり受験勉強をスタートさせた。

塾選びの滑り出しはとてもよかった、と自負している。

けれど、やはりコズエの成績の伸びも安定しているとは言いがたかった。

そして小6の夏には大変なスランプに陥ってしまう……。

そんな危機も親子で足並揃えてり越えながら迎えた、2月の入試。

受験校に向かう道中、つとめて明るく過ごす親子の様子がほほえましいです。

熱望校の結果が出た際に塾の先生がコズエにかけた言葉と、

それを聞いた母親の気付きが非常に秀逸で、本書を通して一番印象に残っています。

「幸せな受験」ってなんだろう。考えさせられました。

 

さて、以上3エピソードを簡単に紹介してみましたが、

この本の本質は、おおた氏によるあとがきなのではないかと考えています。

 

塾選び、学校選び、親の伴走度合いの調整、学習スケジュール管理。などなど。

子どもの意思も大事、だけど、小学生の意思や力だけで受験はできません。

親の仕事は気が遠くなるほどたくさんあります。めちゃくちゃ忙しいです。

 

ただ、「子どもにとって、家族にとって、みんなが幸せになれる」受験期をすごしたい。

2月の1週目をそうやって笑って終えるためにどういう心構えが必要なのか。

やはりとても参考になります。

 

たとえば、2章のハヤトくんは4月以降、

抜け殻状態になって中学生活を送ることになってしまいます。

しかし、学校の先生の紹介で学校外に居場所を見つけることができ、

少しずつ学問への興味や楽しさを思い出していきます。

はたして、進学した学校の偏差値が受験の「成功」を決定づけるものなのでしょうか。

 

そんなことはない、と。

この苛烈極まっている首都圏の受験状況に対して

強いメッセージを投げかけているわけです。

 

「WILLナビ塾」としてはこれまであまり取り上げてきてはいませんが、

実は筆者は学校の先生方への取材でそのカリキュラムや取り組みについて伺う機会が多くあります。

結果、訪問した学校すべてのファンになってしまっている自分がいます(笑

子どもの性格や傾向を見極めて、彼・彼女らが安心して6年間を過ごせる学校を選ぶこと。

学校のことをよく知って、この基本軸を忘れてはいけないのだと思います。

だからこそアンテナは幅広く。張っていきたいところですね。

 

受験が終わった方、2024年度以降の受験が待っている方、

中学受験の世界を覗いてみたい方。

この迫真の中学受験文学をぜひ手にしてみてください。

 

お付き合いいただきありがとうございました。

『翼の翼』『君の鐘がなる』なども近々読んでいきたいなと思っています。

 

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筆者:ミヨシ

「WILLナビ塾」編集部員。

2023年の目標は月に本を2冊以上読むこと、

以前受けてダメだった検定試験に再挑戦すること。

一番好きな日本の小説家は重松清。

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